「三枝先輩が、復讐する気でいるんだなって薄々気づいてたんだよ。だから、先輩がしたいんなら、したら良いじゃんって思ってたんだ」

「だけど」と言って、要は表情を曇らせた。

「あの時計塔で話してたらさ、なんか「違う」んじゃないかって……」

眉間にしわを寄せて、無理に笑おうとする要を、あかねはそっと抱きしめた。

「バカね、良いのよそれで。要は最後に榎木先輩の身を案じて、三枝先輩を止めようとしたじゃない。――良いのよ、それで」

「でもさぁ……もうちょっと早く気づけたら良かったかなぁ、なんてさぁ」

涙を堪えて、おちゃらけたように言おうとするが、声が震える。
無理すんな――そう言って秋葉は要の頭を軽く撫でた。
由希が要の手をぎゅっと力強く握った。

「要ちゃん」

やわらかく要の名を呼んだ美奈は、要をやさしく見つめた。

「もしかして、要ちゃん、ご両親が亡くなった事で……自分の事責めてる? もっとはやく帰ってたらって、今回の事も、三枝先輩が出て行くのに気づけたらって、自分を責めてるの?」

要はぐっと押し黙った。
「うん」とうなづけるほど、要はプライドが低くはないからだ。でも答える代わりに、美奈の瞳をじっと見返した。

「ご両親が亡くなったのは、要ちゃんのせいじゃない。榎木先輩の事も、三枝先輩が最後に罪を犯したのも、それは要ちゃんのせいじゃないよ――だって、ご両親は今も、要ちゃんの傍で、優しく笑いかけてくれているもの」

優しくそう語って、美奈は要の斜め横を見つめた。その眼差しは、暖かさに満ちていた。

自分のせいじゃない――ずっと要は誰かに、そう言ってもらいたかった。

自分が帰るのがあと数分早ければ、もしかしたら両親は助かったかも知れない。要はずっと、そう自分を責めていた。犯人を恨んで、呪うほどに、自分を恨んで呪った。

「うっうう……」

――皆の前で、泣くなんて恥ずかしい。
以前の要だったらそんな事を思って、絶対に泣く事なんてなかっただろう。
だけど今の要は、素直に泣く事が出来た。
そんな要を、あかね達はやさしく見守った。
よく晴れた穏やかな日、青い空には気持ち良さそうに鳥が飛んでいる。
穏やかな日差しが窓に注がれ、要達を包んでいた。
暖かい日差しの中で、要は思った。

――ああ、あたしは、この人達を一生大事にしよう。