「本当かよ!?」

「うそ!?」

「マジでぇ!?」

「……良かった」

思い思いに言葉にすると、要達は言葉を飲み込み、パワーを溜め込み、爆発させた。

『ヤッタぁ――!!』

その歓喜はすでに階段を3階程の段を下りた榎木と三枝の耳にも届き、榎木は心の底でほっとした気持ちを見つけた。
不意に三枝が歩みを止めた。つられて榎木も止まると振り返った。ちょうど、三枝の胸の位置で止まり、三枝を見上げる形になった。


その頃、要はある事に気づいてはっとした。

「三枝先輩と榎木先輩は!?」

「え?」

問われたあかねは戸惑いの表情を要に向けた。いつになく要が焦っているのが解ったからだ。
要はすばやく辺りを見回すが、2人の姿はない。

「――やばい!」

要はそう小さく叫んで、急いで部屋を出た。

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

その後をあかね達は戸惑いながら追った。



三枝は、ゆっくりと口を開いた。

「呉野、助かったみたいですね」

言った三枝の目に色はなかった。

「――私、本当はずっと呼びたかったんですよ」

「え?」

「『優梨』『綾香』って――でも、なんだか気恥ずかしくていつまでも苗字で呼んでた」

「……」

「裏庭の温室は、よく優梨と綾香とお昼に一緒に過ごしたんですよ」

言って、懐かしそうに優しく微笑む。

「私、確かに貴女の言うように、優梨が死んでから貴女をずっと疑ってた。でも、証拠はなにもなかったんですよね」

「……」

複雑な気持ちで榎木は三枝を見つめる。

――ごめんなさい。本当に――。

榎木がそう、謝罪をしようとした時だった。
三枝はゆっくりと、榎木の肩に手をかけた。

「だから、優梨と綾香と親しくないふりをしたんです。だって、そうすれば吉原達が〝犯人〟の元へ導いてくれる――」

にこりと微笑んだ、三枝の瞳が冷たい。
三枝は、榎木の肩に置いた手に力を入れた。
榎木の体がバランスを取ろうと斜めにねじれて、足がもつれた。

「――っ!」

抵抗むなしく、榎木はバランスを崩して、声も上げられず階段を転げ落ちて行った。
螺旋階段を転げ落ちた榎木は、二階分転げ落ちて、踊り場でやっと止まった。
そしてそのまま、ぴくりとも動かなかった。
榎木の姿が見えなくなった階段を、三枝は見つめていた。

「貴女は『それがないと生きられない』と言った。私にとっての『それ』は優梨と綾香だったの」

その瞳は、まるでなにも写っていないかのように、なんの色もなかった。