軽く流す。
「うーん、教師は無理だしなあ(笑)。料理人とかは?」
「全然興味ない」
「保父さんも違うしぃ。電気屋ももっと違うね。やっぱあんまり人と接するの好きじゃないの?」
「接客は嫌だなあ。色んな人がいるし」
「うんそれよ。やりやすい人かどうかは話さないと分からないからね」
「やっぱり内職が向いてるんじゃないかな」
「内職(笑)。なるほどね。なるべくしてなったんだ。小説家」
「別に、それ以外なれなかっただけだよ」
 大学一年の時、なんとなく書いた小説が大手出版社の新人賞を受賞し、あっという間にデビューして学校を辞めた。親は頑張って卒業しろととりあえず言ってくれたが、今職が見つかったのを台無しにしたくない、と、とりあえず安心させ、暇つぶしの大学を辞めた。
 学生なりに楽しいことはあった。授業も嫌いじゃなかったし、合コンにも何度か行った。倉庫整理のバイトも体力仕事だけに金になったし、まあ、大学生ってこんなもんかなと思える程度ではあった。
「売れっ子小説家の姉って何かカッコイイよね。頑張れ、正美」
 多分姉は、当時そう言った一言を、既に忘れている。
 姉にとって自分への一言一言は家族に向けられたただの一言であり、重要性は特になく、ただのそれこそ暇つぶしに同じ。
「ねえ正美……正美、この前独身主義って言ってたじゃん、あれどうして?」
「ああ……」
 こんな大勢が行きかう、姉がチョイスした安っぽい場所で言えるような内容ではない。
「友達とか結婚してないの?」
「子供いるやつもいるけど……まだほとんどしていない」
「だよねー。まだ23だし。けど私の友達になるとさ、もう結構結婚してるんだよねー。なんかやっぱり置いてけぼり感感じちゃう」
「……でも彼氏がいるんじゃなかったっけ?」
「いるけどね……結婚しないの。結婚したいって言ったけど、そんな気になれないって。プロポーズ失敗よ」
 衝撃の大発言を姉は明るく笑って言った。
「……そんな気になれないって?」
 平静を装って聞いた。
「うーん、今は仕事が忙しいって感じかな。稼ぐのが楽しいのよ、きっと」
「大丈夫なの、その人?」
「何が?」
 姉の顔に少し曇りが見えた。図星か?
「あんまり言いたくないけど、不倫とかじゃないの?」
「違うよ!」
 ほっとしたように、大げさに笑う。そっちじゃない、ということか……。