あれほどにまで淫靡と幼稚のバランスがとれた、美しい彼女が相手ならば、それは仕方なのないことなのだ。
 正美はデスクの引き出しをそっと開けた。
 彼の一番の気に入りの写真、姉が大きなつばのある白い帽子を被り白いノースリーブを着て、海をバックにまぶしげに、こちらを酷視している。
 にこりともしていない。ただまっすぐファインダーを見ているだけ。
 それだけの視線なのに、吸い込まれるように見入ってしまう。
 正美は特に写真の趣味はないが、ただ家族旅行に行くときだけは、姉の姿を残しておくために、必ずカメラを持って歩いていた。
 この写真も、その中の一枚である。一番姉らしい、顔。一番、自分の好きな表情だ。
 そのまま5分は見ていただろう。一通り眺め回すと、ゆっくり引き出しに戻す。
 さて、仕事。日本に帰って来たからにはやはり働かないと……。今夜は徹夜だという覚悟が余計そう思わさせる。とりあえず明日明後日2つの締め切りに追われる現実に頭を切り替え、正美はデスクチェアをギッと鳴らした。