いつものティシャツに短パンで自転車でここまで来たオレは、白いライン入りのシャツに大人の腕時計をした兄を目の前に少し緊張し、居心地の悪さを感じた。
「よく紹介してとは言われるけどな。だから絶対会社の奴とかには無駄に会わせない。もうしつこいから、皆(笑)。どうせお前も同じような目にあってんだろ」
「え……いや……2回くらいはあったかな……」
「まだ中一じゃそんなもんか。まあ外見が目立つしなあ……。愛は、早く結婚して、家庭に収まって専業主婦してるのが一番無難だ」
「ああ……なるほど……どんな奴と結婚するかな……」
「さあ。あんまり高望みって感じはしないな。ロクデナシじゃなきゃいいんじゃないのか。それに一回離婚するのも人生経験だと思うし」
「離婚……」
「最近そんなもんだよ。ちょっと前さ、同級生がバツ一になったけど、そりゃあもうなんかしっかりした奴になったよ」
「ふーん……。兄さんは、結婚しないの?」
「俺はまず仕事かな。男は結婚なんていつでもできるし。若い女つかまえれば、年とっても子供ができる」
 年頃のオレには、子供をつくるというキーワードに過剰に反応しそうになるのを抑えるのに精一杯だった。
「……で、さ、話戻すけど」
「え、何だった?」
「姉さんのこと……」
「え、なんだっけ? 女としてどうか?」
「まあ……」
「そりゃいい女なんじゃないのかな? 外見いいし、スタイルもいいし、頭も悪くないし、性格も悪くないし」
 腕を組んで宙を仰いだ兄は、睨むように考えていた。
「結婚したいと思う?」
「え? 何が?」
 きょとんとした表情は、作り顔ではないらしい。
「いや……」
「何? お前、結婚願望出てきたの?」
 兄は笑って、話題を変えた。
 その時の会話をトレースしても、兄はとぼけているという風でもなく、まさか兄弟で恋愛感情を持つなんて想像もできないといった感じであった。
 おかしいのは、自分。
 分かっている。分かりすぎるくらい、自分が一番よく分かっている。