「サソリの心臓だな…」

 ぼそり。

 助手席の京が呟く。

「でも、絹さんがさそり座が好きなら、将兄ィは逃げまわらなきゃ」

 ぷぷぷっ。

 了は、吹き出しそうになるのを、口をおさえて我慢している。

「ああ…確かに、将は逃げねぇとな」

 助手席は、鼻先で笑う。

「い、いや、た、ただの神話だろ!」

 焦る将。

 神話?

 絹は、神話にはうとい。

 彼女が、首をかしげていると。

「将兄ぃね、オリオン座が一番好きなんだよ…さそり座に刺し殺されちゃった星座」

 了が、楽しくてしょうがないという風に、絹にチクる。

 オリオンと言えば、冬の星座の代表だ。

 なぜ、夏の星座のさそりと絡むのか。

「それ以来…オリオンは、さそりを恐れて、さそりが夜空にある時は、こそこそと隠れているのでした…っと」

 京は、物語の結末を読み上げるように、話を締める。

「兄貴! 了!」

 上と下にからかわれていることに気づいた将は、いい加減にしろよと制止するが――兄弟のニヤニヤは止まらないのだった。