「観測場所まで一時間はかかるよ。絹さん、仮眠しとく?」

 車が走り出すと、将が最初にそう切り出した。

 星が、きれいに見られるところへ行くには、それくらいかかるのか。

「いえ、初めてですから、起きてます」

 車中の出来事を、ボスも楽しみにしているだろうし、膝の上の夜食をひっくり返したら大変だ。

「観測会って言ったら、パパも来たがったんだよ…お仕事で、だめだったけど」

 了の話の前半部で、さぞやボスは期待しただろう。

 しかし、後半ではがっかりだ。

 ボスの落胆を想像して、笑みが浮かびそうになった時。

「絹さんは、何の星が好き?」

 あ。

 いきなり振られた将の質問に、彼女は既視感を覚えた。

 同じ質問を、でかける前にしたのだ――ボスに。

 一瞬、頭の中を星空が巡る。

「そう…ね……アンタレス、かな」

 好きな星など考えていなかった絹は、ついボスの星をパクった。

 おおかみ座とか、知ったかぶりしても、ボロが出るだけだ。

「あぁ、赤くきれいな奴か」

 将は、有名なそれを思い描くように、車の天井を見上げる。