Ver.森村1


「久しぶり」

 偶然、というには変な話だ。

 こんな山奥で、たまたま会えるはずがない。

 彼は。

 ゆっくりと、絹の方を見た。

「ああ…久しぶりだな」

 しかし、驚く様子はなかった。

 穏やかとは言いがたいが、自分を包む棘を、自分で折り続けているのが分かる瞳。

 若いのに、綺麗に丸められた頭が、彼の心の現われか。

 3年たった。

 正直に言えば、猛烈に探したかったわけではない。

 ただ。

 心のどこかに、ずっと引っかかっていた。

 当事者というよりは、織田の犠牲者だった彼のことを。

「兄さんは、元気かい?」

 絹に話すことは、きっとそれくらいしか思いつかないのだろう。

 高校時代も、同じだった。