ワケあり!

 案内されたのは、科学準備室。

 勝手知ったる様子で、ゴージャス天野は、すみっこのストーブに火をつける。

「すぐあったまるから、待ってな」

 そのストーブの近くに、科学室から椅子を引っ張ってくる。

 慣れたものだ。

「何で科学準備室に?」

 カギも持っていた。

「うち、科学部やってんねん…もう引退したけどな」

 まだ顔効くから、出入りは自由なんや。

 それはそれは。

 意外と地味な部活に、絹は驚いていた。

 理系の人とは、思わなかったのだ。

「建築部とかあったら、そっち入ってたけどな…似合わへんやろ? うちに科学なんて」

 天野節は、変わっていないようだ。

 ポップコーンのように、次々と言葉が跳ねだす。

「うちのにーちゃんがな…科学バカやってんねん。高校でも大学でも、変人扱いされとったわ」

 ある程度。

 絹が、頭の隅で描きかけた話へと流れていく。

 全て、過去形で語られる話。

「顔はうちに似てて、色男やったのに、変人すぎて彼女も作れへんし…家も継がんゆうて、とーちゃんに勘当されて、出てったわ」

 ささ、食べよ。

 あったかい、ストーブの傍の席を勧められる。

 話に聞き入っていた絹は、これが天野にとっては単なる雑談なのだと気付く。

 もしかしたら。

 彼女の兄は、今でも失踪扱いなのだろうか。

 天野は、今でも兄がどこかで――

「ま…もう死んだんやけどな」

 あっさり。

 あはははと、湿っぽい話を叩き壊すように、天野は笑った。

「やりたいことやってたんやから、悔いはないやろ」

 絹が固まったのに気付いたようで、天野は彼女の肩をばんばんと叩く。

 いや――悔いを残してるかも。

 絹は、うっすらと汗をかいた。