ワケあり!

「絹さーんっ!」

 三男坊は、病室に入るなり、滝のように泣き始めた。

「よかった、よかったよー!」

 絹の布団を、水びたしにさせる勢いだ。

「ごめんね、心配かけて」

 よしよしと、その頭を撫でる。

「絹さんが、死んじゃったら、僕、僕!」

 物凄い顔を向けられたので、絹は苦笑しながら箱ティッシュを渡した。

 チーーンッ!

 絹に背中を向けて、盛大に鼻をかむ背中。

 なんだか、ちょっと印象が違う。

「了くん、背が伸びてない?」

 にょきっと、頭半分くらい高くなった気がする。

「うん! 手も大きくなったよ!」

 赤い鼻のまま振り返る了は、手を開いて見せた。

 確かに、大きい。

「僕ね、アキさんの紹介してくれた空手道場に通ってるんだ」

 ついでに袖をまくって、あざだらけの腕を見せる。

 えへへー、っと。

 泣いたり笑ったり忙しいのは変わらないが、そんな了が武道とは。

「うちの家族って、みんなよわっちーでしょ」

 全員、自分より年上なのに、容赦なくぶったぎる。

 ひ弱ではないが、確かに趣味は天文だし、仕事は機械いじりだし。

 マッチョになる要素はなかった。

「だから僕、強い役をやるとこにしたんだ」

 役?

 自分で言うには、妙な表現である。

「頼りがいのあるパパに、意地悪な京兄ぃ。明るい将兄…そして、あまったれな末っ子」

 自分について、見事に言い切った。

 だが、何が言いたいかは分かる。

 新しい自分に、変わりたいと思っているのだ。

 しかも、家族の誰ともかぶっていない方向に。

「マッチョであまったれな末っ子ってのも、意外性があっていいよね?」

 あれ?

 絹は、笑った。

 あまったれは――残すんだ、と。