「おふくろの話もそうだが」
京にも、何か話をした方がいいかと、絹が考えていた時。
彼の瞼が、上がった。
「目の前で、お前が斬られたんだ…普通ヘコむだろ?」
皮肉っぽい言い方。
自嘲めいても聞こえる。
「アキさんからの悪い報告で、留守番組のオレと了は思った…『将は何をしてたんだ』ってな」
キツイ言葉。
アキでさえ、動けなかったあの時、誰が将を責められるのか。
「けど…あのバカが、お前を守ろうとしないはずがないんだよな…それが出来ないくらい、異常な事態だったのは…分かった」
帰ってきた将を見たら、な。
『ありもしないものを抱いた…だから、両手がふさがって絹さんを守れなかった』
将が、最初に言った言葉だそうだ。
血が、真っ黒にこびりついたままの姿の弟を――京は見たのである。
ありもしないもの。
難しい言葉だ。
かの存在の定義は、絹でも正確にはできない。
だが。
「あの時だけは…あったわ…確かに」
桜には、死に直す時間が与えられた。
言い遺したかった言葉を、伝えるだけのレコーダーのような存在だったのかもしれない。
ただ、残酷な話だが、それは彼女が死んだからこそ成り立つ話だ。
現実は、陶酔の言葉では済まされない。
島村を見れば、それがよく分かる。
「じゃあ…」
絹の言葉を噛み締めるように、京が口を開く。
「じゃあ…おふくろは、ちゃんと死ねたんだな?」
変な言葉だ。
とてもとても、変な。
けれども、子供の頃からずっと、彼を縛り付けていたものだ。
「ええ…」
京の、鎖が切れる。
「そうか…」
少し、笑った。
絹の前では――泣かないのだ。
京にも、何か話をした方がいいかと、絹が考えていた時。
彼の瞼が、上がった。
「目の前で、お前が斬られたんだ…普通ヘコむだろ?」
皮肉っぽい言い方。
自嘲めいても聞こえる。
「アキさんからの悪い報告で、留守番組のオレと了は思った…『将は何をしてたんだ』ってな」
キツイ言葉。
アキでさえ、動けなかったあの時、誰が将を責められるのか。
「けど…あのバカが、お前を守ろうとしないはずがないんだよな…それが出来ないくらい、異常な事態だったのは…分かった」
帰ってきた将を見たら、な。
『ありもしないものを抱いた…だから、両手がふさがって絹さんを守れなかった』
将が、最初に言った言葉だそうだ。
血が、真っ黒にこびりついたままの姿の弟を――京は見たのである。
ありもしないもの。
難しい言葉だ。
かの存在の定義は、絹でも正確にはできない。
だが。
「あの時だけは…あったわ…確かに」
桜には、死に直す時間が与えられた。
言い遺したかった言葉を、伝えるだけのレコーダーのような存在だったのかもしれない。
ただ、残酷な話だが、それは彼女が死んだからこそ成り立つ話だ。
現実は、陶酔の言葉では済まされない。
島村を見れば、それがよく分かる。
「じゃあ…」
絹の言葉を噛み締めるように、京が口を開く。
「じゃあ…おふくろは、ちゃんと死ねたんだな?」
変な言葉だ。
とてもとても、変な。
けれども、子供の頃からずっと、彼を縛り付けていたものだ。
「ええ…」
京の、鎖が切れる。
「そうか…」
少し、笑った。
絹の前では――泣かないのだ。


