ワケあり!

「よぅ」

 見舞いの一番手は――京だった。

 兄弟がまとめて押し掛けると、絹を疲れさせるという配慮かららしい。

「久しぶり…って気がするわ」

 随分、長く会っていない感じがした。

 新しい人間は、まったく出入りしないので、京の顔がとても懐かしく感じる。

「気、じゃねぇよ…久しぶりなんだよ」

 ベッドの側の椅子に腰掛けながら、京はいやそうに言った。

 ほれ、とベッドに置かれる花束。

 赤中心の、京らしい大人びた色。

「もう11月だぞ。寝すぎだ、バカ」

 なんだろう。

 悪態が心地いい。

 バカと言われているのに、にこにこしてしまうのだ。

「もっと…悲壮なツラしてるかと思ったら、まともすぎて拍子抜けしたぜ」

 ふーっと。

 ため息をつきながらも、しかし、京は目を細めた。

 ニヤッとは、また違う笑み。

「だって、楽しいもの」

 ふふふ、と絹はベッドにいながら、心がふわりと浮いたのに気付いた。

 生きていて――誰かが自分を必要としてくれているのが、こんなにも嬉しいことなのか。

 この気持ちを手に入れただけ、額をかち割られた甲斐もあった。

「じゃあ、頼んでもいいか?」

 ふと京が、音程を変える。

 低くなる音。

「なに?」

 なんだろう。

 京の音に、微かな不安がよぎる。

 目を、見られた。

「その調子で…将を引っ張り上げてやってくれ」

 まったく。

 京が、本当に困っている眉を見せた。

 あ。

 よみがえる記憶。

 あの日のことは、忘れていたわけではない。

 ただ、あまりのいびつな情報に、おそらく全てを吸収してしまうのは無理だろうと、時の風化に任せていたのだ。

 だが。

 将が、いた。

 彼が見たものの本当の意味を、絹以外の誰が説明できよう。

 京を見る。

「お母さんの話…してた?」

 その目の中に、自分が見える。

「ああ…」

 彼の瞼の中に――絹は消えた。