ワケあり!

 ボスは、動かなかった。

 絹に抱きつかれ、驚いて動けないのかと思っていた。

 だが。

 その身体が、ピクピクと震える。

 震えるというより。

 痙攣?

「言っておくが…」

 島村が、横からぼそっと呟く。

「先生は…本当なら、まだ入院してないといけない身体だ」

 ぼそぼそっ。

 何を、言っているのか。

「何度も、病院を抜け出して無理をしたせいで…開いては縫い、開いては縫いのいたちごっこだったからな」

 ええと。

 絹は──そーっと、抱きついているボスを見上げた。

「要するに…立って歩くのが、いまは精一杯、ということだ」

 ボスは。

 顔が、真っ青になっていた。

 奥歯を強くかみ合わせて、激痛に耐えている、という風だ。

 そんな人間に、絹は抱きついたのである。

 慌てて、ボスから離れる。

「気が済んだでしょう…帰りましょうか、先生」

 痛みで、痙攣以外ぴくりとも動けないボスに、島村がしれっと言った。

 おそらく、ボスは相当彼にも心配をかけたのだ。

 そのせいか、その自業自得の部分については、少しあきれているように見えた。

 絹が寝ている間に、この二人の人間関係も、少し変わったのかもしれない。

「大丈夫ですか? ボス」

 病室に入ってきた時の彼は、まったく普通の動きに見えた。

 しかし、そう振舞っていたのだと分かる。

 いつも通りの自分であるように、絹に見せたかったのか。

 何故か。

 その理由は、もうどうでもよかった。

 絹にはもう──糸が見えてしまったのだから。