ワケあり!

 ボスが?

 絹は、眼鏡の男を見上げる。

 彼女の方を見ない、ボス。

「この顔のままでも…いいんですか?」

 確かに、もう織田はなくなった。

 しかし、この顔が織田の残党にとっては、忘れられない顔のはずなのに。

 トラブルの種を、残していることにはならないのか。

「お前が…」

 ボスが。

 ゆっくりとゆっくりと、息をついた。

「お前が…その顔でいたいんだろう」

 絹を見ない、目。

 一瞬。

 絹の中から、全ての言葉が失われた。

 白い白い脳内から、「ああ」と言葉が降ってくる。

 ああ、と。

 この気持ちを、絹はどう表現すればいいのだろう。

 ボスから自分につながる、一本の糸が見えたのだ。

 ないと、思っていた。

 そんなものは。

 絹は、ただの駒で。

 いつか不要になったら、出て行かなくてはいけないと思っていた。

 なのに。

 ないと思っていた、一本の線がそこにはあったのだ。

 彼は、ただの自己至上主義の、マッドサイエンティストではなかった。

 死にかけた助手を、「生かしたい」と思った人だ。

 その形が、正しかったかどうかは分からないが、島村はいまそこにいて。

 そして。

 絹が──まだこの顔をしている。

 ああ。

 どうにか、この白い白い気持ちを、ボスに伝えたいと思った。

 ゆっくりと、身体に命令を出して、絹はベッドから足を下ろす。

 立ち上がる。

 何もかも、ゆっくり。

 しかし、ボスは動かなかった。

 多分。

 何をされるか、分からなかったのだ。

 そのやせた身体に──絹は抱きついた。

「ありがとう…ございます」

 精一杯の、感謝の言葉。