ワケあり!

「取るぞ」

 ボスではなく、島村が絹の包帯に手を伸ばした。

 どうやら。

 自分の顔から、白い布地が取り払われていく中、絹は静かにそう考えていた。

 どうやら、自分は本当に運よく生き延びたようだ。

 ただ、この二人が本気で絹を騙そうと思うのなら、おそらく一生騙せるだろう。

 だから、本当の意味では、どっちが答えなのかは分からないのかもしれない。

 だが、彼らが違うというのなら「違う」のだ。

 するりと。

 最後のあたりの包帯は、外すまでもなく、絹の首の周囲に輪を作るように落ちた。

 額から頬にかけて、密封されるように貼られた、テープのようなものがはがされる。

「ああ…いいな」

 ボスが、絹の額をじっと見た。

「そうですね」

 島村が、白衣のポケットから小さい鏡を取り出す。

 絹は、それを受け取った。

 久しぶりの対面ね。

 絹は心の根底に残る怖さを、そういう言葉でごまかした。

 そして鏡に──自分の顔を映す。

「………」

 なんだか。

 拍子抜けするほど、そこには、ただ『高坂絹』がいた。

 桜の顔そっくりの、そして、傷ひとつない。

 本当に、自分は額をカチ割られたのだろうかと、不思議になるほど綺麗な皮膚。

「傷は…どうなったんですか?」

 触れてみる。

 額に違和感はない。

「お前の寝てる時間が長かったからな…脳の手術が落ち着いてから、形成もしておいた」

 島村が、ちらりとボスを見る。

 ボスは、その視線には反応しなかった。

 何だろう。

 少しの違和感。

 島村が、そんなボスの様子に、ゆっくりとため息をついて。

 こう言った。

「ボスが、病院を抜け出してやってくれたんだ…礼を言っておけ」

「島村…」

 島村にしては珍しく──余計な言葉だった。