いろいろなことが、出来るようになるまで、長い時間が必要だった。

 脳が、自分の扱い方を忘れたかのように、言うことをきいてくれないのだ。

 その間、物語のように過去の出来事を語ってくれたのは――アキだった。

 ボスは、入院してはいるが、無事なこと。

 織田は解体され、あの男も死んだということ。

 広井家はみな無事で、温Pの発表も成功したこと。

 アキが、家政婦をやめたこと。

 それらを聞きながら。

 やっと、ゆっくり動かせるようになった手で、自分の顔を触ろうとしたら。

「再生手術は終わってますが、まだ包帯は取れませんよ」

 少し、困った声のアキ。

 この顔は。

 一体、どうなったのだろう。

 絹は、あの男に額をかち割られたらしい。

 丈夫な頭蓋骨だったおかげで、命はとりとめたという。

 だが、絹は疑いがあった。

 それは、本当だろうか、と。

 実は、絹は助からずに死んだのではないか、と。

 いまの自分は自分ではなく、トレースされたコピーではないのか。

 ボスが動けなくても、島村だって出来るかもしれないのだ。

 だが、それをアキには聞けない。

 彼女はただ、自分をかばった絹の看病をしてくれているだけなのだから。

「包帯が取れたら、広井家の方々がお見舞いにきますよ」

 みなさん、早く会いたがってます。

 きっと、いまはアキが止めているのだろう。

 顔中、包帯を巻いたミイラみたいな姿は、見せたくないに違いないと、気を利かせてくれたのだ。

 だが。

 本当に、会えるのだろうか。

 この身体が、自分かどうかも分からないし、包帯を取ったら違う顔かもしれない。

 傷が残っているくらいなら、可愛いものだ。

 いっそ、傷があったほうがいい。

 それが──自分の証明のように思えた。