ワケあり!

 何故――来たのか。

 何故、ここに来たのか。

 来る方法や、手段を問うているのではない。

 居場所は、島村が知っているし、今の彼なら教えかねなかった。

 性格を考えたら、一晩おとなしくしているタイプでもない。

 だが。

 だが――将が、ここへ来てはならなかった。

「…朝?」

 血を流す女王が、呆然とした女の声になる。

 絹に駆け寄ろうとした足音が。

 止まった。

「やだ…これは夢? 朝に会えるなんて」

 桜は、瞳いっぱいの涙を溢れさせる。

 振り返れない。

 後ろに将がいるのが分かっているのに、いまの彼を見られないのだ。

「つまらんな…」

 だが。

 桜の幸福の時間は、たった一言で粉々に砕け散った。

 無慈悲な手が、彼女の浴衣の襟首を掴み上げたのだ。

「あうっ!」

 もたれているので精一杯だった彼女は、その突然の狼藉に苦悶の声を吐いた。

「広井が絡むと、お前はいつもくだらない女になるな」

 のけぞる桜の顔についた血を──舐める。

「う…っ!」

 うめく桜を、そして炎の近づく畳に放り投げるのだ。

「そうだ…お前が死ぬ前に、お前に広井が死ぬところを見せてやろう」

 次に吹っ飛んだのは、森村だった。

 一蹴りで、庭まで突き落とされる。

 そして、庭に落ちるのは──刀。

「やめ…っ…」

 身を起こして叫ぼうとする桜。

 しかし、声が途切れる。

「それ」は、絹を見た。

 いや、彼女の後ろの、将を見ているのだ。

 裸足が庭に下り立ち、刀を拾い上げる。

 倒れたままの、桜と森村。

 絹は、その二人の姿を確認していた。

 何故か。

 そう。

 こう言うためだ。

「撃って!!!」

 悲鳴に、なっていた。