ワケあり!

「何だ…オレを殺しにきたのか?」

 突きつけた刀を、「それ」は軽く放り出した。

 森村の側に、弧を描いて突き立つ刃。

 何を考えているのか。

 どっちも、だ。

「それ」は、自分の命に執着を見せないし、森村はここに登場する必要がない。

 二人の間に、突き立つ刀。

「やめなさい…刀を取ってはいけないわ」

 ぴくっと右腕を動かした森村を、桜が止めた。

「織田を殺した者が、織田になるのよ…絶対にやめなさい」

 言葉が続く度に、森村の右腕が微かに反応する。

 これまで織田の話の中で、ただの一度も世襲制という話はなかった。

 継いだ者が「織田」になるのだと。

 そんな、変な話だけ。

 しかし。

 桜の言葉を聞いてなお──森村は、刀を取る。

「織田になる…それはいいな」

 低い低い、呟くような声。

 ああ。

 ここにいるのは、憎しみを持った男だった。

 間接的に、目の前の「それ」が森村を不幸にしたのだ。

 そして彼は、復讐する覚悟がある。

 絹は、半歩だけ前に出られた。

 それだけで、燃え上がる建物の熱風が、10度も絹への温度を上げた気がする。

 その熱風に負けないよう、絹は唇を開いた。

「織田というシステムは、もう終わりよ! 織田になったって、何の力もないわ」

 有益なことなど何もない。

 いま、織田になっても、文字通り火中の栗を拾うようなものだ。

 だが、絹の声など、森村の頬をなでただけだった。

 ちらりと。

 彼女を見た彼の目は──笑ったのだ。

「けど…あいつを殺せるくらいの力はあるだろう?」

 刀は。

 まるで、ラケットのような動きをした。