ワケあり!

「それじゃ、ひとっ走り行ってくるぜ!」

 ボスを乗せた車が、泥を跳ね上げる。

 この辺は、幸い彼らの顔の効くエリアで、もぐりの腕のいい医者が近場にいるというのだ。

「いいのか?」

 聞かれて、歯を食いしばって頷く。

 絹は──残った。

 自分でも、ボスと行くべきだと思ったのに。

 ざぁっと、炎の上昇気流が、絹の産毛を逆立てた。

 あの。

 あの、吐き気のする結末を、自分の目で見て帰らなければ、一生の悪夢になりかねなかったのだ。

「それなら戻るぞ…アレがどうなってるのか、オレも気になる」

「アレはもう死んでてくれよ…ぞっとするぜ」

 銃を持っている、人間さえ脅かす存在。

 ここにいる全員、「それ」の名に気づいているはずなのに、呼ぶことが出来ない。

「お前さんと同じ顔の女は…助けないのか?」

 行くぞ、と促されて動き始めるが、その問いに足が固まってしまいそうだった。

 答え、られない。

「……敵じゃ、ないわ」

 言えたのは、それだけ。

 煮え切らない返事に、彼は横目で絹を見た。

「まあいいさ…残る問題はアレだけだ」

 そして、彼らが再び縁という舞台に戻った時。

 途中退席していた彼らを尻目に、演目は進んでいた。

 立ったままの桜だけが、変わらない。

 だが、「それ」が刀を突きつけている相手は──新たな俳優、だった。

「森村さん!」

 血まみれの姿。

 しかし、どこも怪我をした様子はない。

 おそらく、ボスを担ぎ出した時についた血だろう。

 絹の呼びかけに、森村は答えなかった。

「それ」を見ている。

 そして。

 奇妙な舞台が完成した。

 同じ顔の女が二人、男が二人。