ワケあり!

 庭に面した縁に──「それ」はいた。

 抜き身の日本刀を畳に突き立てて、柄に手をかけたまま膝をついている。

 ジャッと砂を鳴らして踏み込んだ彼らを、ゆっくりと見やる。

 ああ。

 年齢が違うと分かっているのに、絹でさえ見間違うほど、「それ」は森村だった。

 あの氷点下の目と、同じ目だったのだ。

 しかし、違う。

 まとっているものの、根本から違う。

「招かれざる客が来たな…」

 柄の手に力をこめ、「それ」はずっしりとした身体を上へと引き上げた。

「桜の亡霊も見えるようになったか…ジャージで迎えとは粋だな」

 ずずずっと。

 背後で炎が燃えているというのに、何も感じていないかのように、畳から日本刀を抜く。

 チャッと、二人が銃を構える。

 この男を見て、構えられるだけでもすごい。

 絹は、気を抜けば後方へよろけそうだった。

 ボスを、助けなきゃ。

 まだ、どこにいるかも分からない。

 いまどういう状態なのかも。

 なのに!

 なのに── 一歩も踏み出せない。

「それ」のせいだ。

 人の姿をしているのに、人を感じられない。

「おい…あれが、雇い主じゃないだろうな」

 彼らがトリガーを引けずにいるのは、「それ」が絹側の人間と誤解しているからではないはずだ。

 彼らだって、気がついている。

 自分らが、得体の知れないものの前にいることを。

 答えなきゃ。

 違う、と。

 あれは、味方でもなんでもない、と。

 そうしたら、彼らが撃ってくれる。

 それで、脅威は去る。

 なのに。

 声が、声が。


「亡霊は……こっちよ」

 燃え盛る座敷の奥から、浴衣の裾を焦がしつつ、誰かが現れる。

 目を疑うしかない。


 ぴーこだった。