ワケあり!

「やばいな」

 太陽はとっくに昇っている。

 だから、山道の途中で既にそれが見えていた。

 煙が上がっているのだ。

「もう、誰か暴れてるのか?」

 絹も、身を乗り出すようにその光景を見た。

 ボス!

「すぐつく、ちゃんと援護してやっから、もうちょい待て」

 青ざめる絹は、座席に引き戻された。

 既に、運転していない二人は、銃火器を装着し終えている。

 車が止まれば、すぐに飛び出せる状態だ。

 どうにもならない移動時間、焦ってもしょうがないのだと──そう、言われているのだ。

 引っかかる喉を無理やり開き、絹は大きく息を吸った。

 どうか、無事で。

 途中で車は林道へと突っ込み、煙に向かって間違いなく進む。

 木々が開けた時、突然白壁の塀が現れる。

 庵というほどこぢんまりとはしていないが、それに近い侘び寂び感の建物が──燃え上がり始めていた。

 着物の老婆が、こけつまろびつ飛び出してくるのに、車は急ブレーキをかけた。

 半回転して止まった車。

「先行け!」

 運転手の男が、怒鳴った。

「あたぼうよ!」

 二人が飛び出すのに遅れないよう、絹もドアを開けた。

 老婆など、無視でつっこんでいく。

 しかし、一瞬だけ絹の意識にその存在が残った。

 もしかしたら、と。

 確認する暇などない。

「ボス!!」

 開け放たれている門に飛び込み、そう絹は叫んだ。

 だが。

「ハッ…ハハハハハッ!」

 彼女の叫びに応えたのは──咆哮とも取れる、笑い声だった。