ワケあり!

 彼女の目を、まっすぐ見返せるものなど、ここにはいないのだ。

「はっ! はははは! 傑作だ!」

 ヒステリックに、男は笑った。

「だから、あんたらはここを陥とせないんだ! そんな、ナマっちょろいことを言ってるから!」

 目の前で、怒鳴りつけられても、アキは微動だにしない。

 あと少し、アキが針を振れさせたら、きっと彼は爆発しただろう。

 だが。

「やれやれ…」

 声が、聞こえた。

 絹たちより、もっと後方。

 知らない声。

 誰でもない声。

 振り返る。

 男が三人いた。

 いずれも三十前くらい。

 普通の人間じゃないことが、ただ立っているだけでも伝わってくる。

「千載一遇のチャンスと聞いて駆けつけたら…後輩どもは、今の時代もモグラ野郎か」

「門、開けてくれたのあんたらだろ? ありがとよ…後から、またオレらみたいのが来るぜ」

「やっと、ここと本当にオサラバできる」

 ああああ。

 絹は、震えが走った。

 彼らの、名前を問う必要はない。

 まさかの駒が、来たのだ。

 ここから売られていった、いわゆる卒業生たちに違いない。

 絹たちの襲撃の情報を、手に入れてくれたのだ。

 強く生き延び、年を重ね、それぞれの組織の中で、自由に動けるようになったのだろう。

 何年たっても、ここのことを忘れきれずにいたのだ。

 こんな心強い駒は──他になかった。