ワケあり!

「アキさんっ!」

 叫ぶまでもなかった。

 既に、彼女はその大きな手を突き出していたのだ。

 最上位の男が、手を引ききるより先に、がっしりと掴み――自分より重い身体を、片手で引きずり寄せようとした。

 一瞬の態勢の崩れでいい。

 アキには、それで十分に違いなかった。

 まるでコマ送りのように、男が綺麗に体落としを決められる様を、絹は見ていた。

 気合いの掛け声一つなく、アキは息ひとつ乱していない。

 だが。

 絹は、恐れていた。

 アキの技は、綺麗すぎるのだ。

 勝つか死か、をたたき込まれるここの人間には、まだ負けた、ではない。

 彼がどこまで抵抗するか、そこがカギだ。

「そんなお綺麗な技じゃ、勝ったとは…!」

 案の定、彼は足を跳ね上げ、真下からアキを蹴りつけようとする。

 その足を、腕でガードしたアキは――しかし、構えを解いて彼に詰め寄る。

「この決闘に、益などありません」

 あの陽の目が、まっすぐに彼を見た。

「あなたが倒したいのは、私ですか? 教官ですか?」

 まっすぐすぎる言葉。

 ああ。

 絹は、半分だけ覚悟した。

 アキの言葉や行動は、おそらく彼には届かないだろう、と。