ワケあり!

 ドアを――少しだけ開ける。

「今からドアを開けます。敵ではありませんので、攻撃もしません」

 声を、先に入れるためだ。

 ギギィ。

 重々しいドアを、絹はゆっくりと開ききった。

 絹くらいの年ごろの子たちが見える。

 自分と、同じ目の人間だ。

「いま、私たちは教官らと戦闘中です。あなたたちもここから解放します…ただ、その前に、力を貸して。教官との戦闘を、終わらせたいの」

 信じられない話だろう。

 絹が、この中の一人なら、とても正気の話とは思えない。

 だから、反応はとても鈍かった。

 時間がないのに。

 彼らの行動スイッチを入れるには、こんな実態のない言葉ではダメなのだ。

 荒技でいくしかない。

「最上位は誰!?」

 やさしい敬語では、届かないというのなら。

 気合いを込めて、絹はそう言った。

「オレだ」

 知っている男が、前に踏み出した。

 親しかったわけではない。

 しかし、過去が一瞬絹の意識をよぎった。

 振り払う。

 絹は、後方のアキを手で指した。

「彼女が、うちの大将よ。あなたが勝ったら、みんなで逃げればいい。こっちが勝ったら…味方になってもらうわ」

 最上位が負ければ、他の誰もかなわない。

 そして、教官とやりあえる人間だと理解される。

 みんなの意思、では彼らは動けないのだ。

 最上位が、絹の提案に乗れば、必然的にそれが全員の意思になる。

「分かった…ウチ流だからな、こぎれいなことは言うなよ」

 彼は、そういうなり――絹に腕を伸ばしていた。

 あっ!

 戦う相手はアキだというのに。

 いや、違う。

 分かってやっているのだ。

 どんな勝ちでも、勝ちは勝ち。

 絹を締めあげてでも、アキに参ったと言わせればいいのだ。

 そうね。

 そういうところだったわね。

 絹が、ここ出身でなければ、このままパニックで捕まっていただろう。

 悲しいかな、身体は自然に飛び退いていた。