どう、しよう。

 切った携帯を手に、絹は言葉を失ったまま。

 アキは、黙っているのが苦にならないのだろうか。

 存在感こそ消えてはいないが、ぴくりともせずに、ただそこにいる。

 わめいてひっくり返って、起きるまでの間に、みんなが動き出してしまった。

 みんな?

 いや。

 まだ、あと一人。

 絹が、それを考えかけた時。

 ノックが聞こえた。

 京ではないだろう。

 さっきの彼の様子を見る限り、ノックをする気はなかったようだから。

 将か、もしくは了か。

「どうぞ」

 絹ではなく、アキが許可を出す。

「絹さん、大丈夫かな?」

 ドアの向こうにいたのは──チョウ。

 そう、この騒ぎに加わっていない最後の一人。

「お帰りなさいませ、朝様」

 アキは立ち上がり、彼の帰りにきちんと挨拶をする。

 どんな状況でも、きっと彼女はそうなのだろう。

「あはは、エマージェンシーコールで召集されたよ」

 軽やかに笑いながら入ってくるが、その言葉の内容は、絹を追い詰めるものであった。

 最後の一人までも、引っ張り込むというのか。

「いいえ!」

 絹は、大きな声を出していた。

 やっと、話の出来る相手がここにきた。

 チョウならば、兄弟も、そしてボスも止めることが出来るではないか。

 一番強い、影響力を持つ男。

「いいえ、いいえ…止めてください! 先生も、みんなも! お願いです!」

 本当に、これが最後の砦だ。

 来週、会社の命運を駆けるような仕事があるというのに、こんなことに関わっている暇などないではないか。

 必死な絹に、チョウは少し困った顔になった。

 そして、頬をかく。

「あー…それは、出来ない相談だなぁ」

 絹の足元を崩す、言葉。

「おじさんはね…本当は、この日を待ってたんだよ」

 にこっと笑いながら、チョウは一枚のまあるいディスクを閃かせてみせた。