めまい。

 ベッドに横たわっているというのに──天井が回る気がする。

 自分は、どこにいるのか。

 ぼっちゃんたちのいる、広井家ではないのか。

 将来、大きな電気屋を継ぐ子たち。

 その子たちに、アキは何を見ているのか。

 ドンっと、ドアが開いた。

 ノックもなしに。

 落ち着かない視界で、音を追いかけると。

 京が入ってきた。

「返すぞ」

 ベッドに放り投げられたのは──絹の携帯。

 ボスや島村、そして蒲生のものも入っているそれ。

 気を失っている間に、持って行かれたのか。

 そのまま、ざくざくと部屋を出て行こうとする。

「あっ」

 やっと、我に返ることが出来た。

 だが、言葉は呼び止めるには弱すぎるのか。

 いや。

 あえて──無視された。

 京は、またドアを閉めて行ってしまう。

 無言を貫くアキ。

 そんな彼女の横で、絹は携帯をつかんだ。

 発信履歴を見る。

 ボスにも、島村にもかけた跡があった。

 アキが横にいるにもかかわらず、絹は震える指で島村にリダイヤルする。

「島村さん!」

 向こうが電話を取った直後、大きな声を出していた。

『…怒鳴るな』

 いつも通りの、島村の声。

「何を…何を言われました!?」

 制御を離れようとする、自分の唇をねじ伏せる。

 答えが返るまで、ほんの数秒。

 長い長い──数秒。


『織田を…ぶっつぶすそうだ』