ワケあり!

「朝様は…」

 なん、だろう。

 アキの雰囲気が、変わった気がした。

「朝様は…奥様の死を、誰にも泣き付かれることはなさらなかった」

 淡々と、しかし、何かがばりばりと破れていく。

「本家にも反対されていた結婚ですし…朝様も、仇討ちを思いとどまられたのでしょう」

 ちがう。

 そんな話、アキが知るはずなどない。

 いま彼女が話していることは、桜が死んだ頃の話。

 アキは、まだ小さかったはずだ。

 しかし、チョウがこんなことを、人に話すだろうか。

 ありえない。

「その時の朝様の我慢のツケが…いま、あなたがたにきたのですね」

 絹は――落ち着かなければならない。

 そして、警戒しなければならない。

 アキは、野生の不審人物ではない。

 その事実を、ゆっくりと飲み込む。

 本家という言葉も、絹の頭の中で宙ぶらりんだ。

 しかし。

 どこかで、疑問に思っていたのだ。

 何故、チョウや会社は無事なのか。

 桜を奪った事実が知られ、桜は追い回され殺されたのに、チョウは生きているし、会社もつぶされなかった。

 織田の怒りに触れたのなら、無事のはずがないだろうに。

 そうか。

 本家――いわゆるバックがついていたから、織田も広井家そのものに、手出しができなかったのか。

 本家と織田の間で、桜だけが犠牲になったのだ。

 そこまで考えて、絹はアキの素性をうっすら気付いた。

「その…本家から、来たんですね…あなたは」

 絹は、アキを見上げる。

 正確な表現ではないことは、分かっていた。

 彼女の目は、使う側の色ではない。

 しかし、使われる側にも見えない。

 だから、絹は彼女を見た時に、野生だと思ったのだ。

「本家は…今はもうありません…解体されました」

 あっさりと。

 突然出てきた『本家』とやらは──突然、消えた。