ワケあり!

「う…うわあ! 何やってんのさ、将兄ぃ!」

 大声で、時を動かしたのは了だった。

 京も、すぐそこにいる。

 ここは、広井家の廊下。

 そんなところで──絹は抱きしめられていたのだ。

「何かあった…でもオレ達には話せない…分かる、分かるけど、絹さん…だめだよ」

 絞り出す、声。

「それじゃだめなんだ…」

 将の声は、絹の足元に火をつけた。

 彼女の身体の中には、いくつもの秘密という爆弾が詰まっているというのに。

 それを、爆発させる気なのか。

 ただでさえ、絹は追い詰められている。

 その不安定な状態でも、平静を保つには、とてつもないエネルギーを消費していた。

 そんな絹の均衡を。

 将が、ゆさぶる。

 うるさい。

 うるさいうるさい。

 知らないから、言えるのだ。

 彼女にさえ投げ飛ばされそうな、ぼっちゃんが何を言うのか。

「私を…助けてくれるの?」

 将の胸の中で、絹は笑った。

 全身が引きつるほどの、震える笑い。

「じゃあ…じゃあ、織田っていう悪党を、この世から消して! いますぐ消して! そして、先生と私を自由にして!」

 彼のシャツに、その下の肉もろとも、強く爪を立てるようしがみついた。

 唇が、わななく。

 歯の根が合わない。

 爆発した。

 いや、爆発させてしまった。

 ボスが、この世で一番巻き込みたくない家族に、織田の名をわめいたのだ。


 終わった。


 また。


 人生を、変えなければならない。