ワケあり!

 ノック。

 絹は、ふっと顔を上げた。

 一体、どれくらい考え込んでいたのだろう。

 夏の夕日が、なくなりかけて、部屋を薄暗くしていた。

 のろのろと立ち上がり、ドアのそばの電気をつけにいく。

 先にドアを開けると、部屋の暗さを怪訝に思われるからだ。

 パチンと電気をつけ、それからドアを開ける。

「はい?」

 誰が来たか、聞くのを忘れていた。

 ドアが開くと、少し驚いた将が立っている。

 声より先にドアが開くとは、思わなかったのだろう。

「夕食の時間だから、迎えにきたよ」

 にこっと。

 微笑む将の目が、絹を見ている。

 手放しで笑っていない目。

 今日、アルバイトを休んで自宅に帰ったことで、多少の不審を覚えているだろうし、アキに何かを聞いたのかもしれない。

「ありがとう」

 絹は、にこっと微笑んだ。

 彼女は、ちゃんと目まで笑ってみせた。

 疑惑の服の裾を、掴ませないために。

 部屋を出ようとしたら、でも、腕を掴まれた。

「大丈夫?」

 低い、声。

 自分でも信じられなかった。 

 よろけてしまった、のだ。

 ちゃんと、足を踏み出したはずなのに。

「ええ…今日も暑かったわね」

 絹は、もう一度微笑んだ。

 今度は、問題ない。

 ちゃんと、足を踏み出す。

 支えてくれた腕を、ゆっくり離そうとしたら。

 改めて、もう一度腕をとられる。

「そうじゃなくて…大丈夫?」

 そうじゃないことなど──ないのだ。