ワケあり!

 思った以上に、ショックだった。

 絹は、部屋に引きこもり続ける。

 この顔を、変えようとボスが提案してきたのだ。

 確かにそうすれば、絹が織田に狙われることはなくなる。

 しかし同時に、それ以外のものを捨てるのだと、言われもしたのだ。

 広井家とも縁を切り、学校もやめ──それは同時に、ボスが絹の利用価値を放棄することでもあった。

 そのための絹の、存在意義がなくなる、ということ。

 利用価値がなくなるからといって、廃棄されるわけではない。

 もしそうなら、ボスは顔を変えるなんて回りくどいことは言わないだろう。

 絹を殺した方が、よっぽど後腐れがないからだ。

 しかし、別の人生を歩めと言われるだろう。

 利用価値のない女を、いつまでも側に置いておくようには思えなかった。

 ボスは、女性嫌いなのだから。

 この顔だったからこそ、側にいられたのだ。

 それは、三兄弟やチョウについても一緒。

 彼らのDNAを突き動かすこの顔がなくなったら、きっと彼らは誰も絹だと分からない。

 振り向きもしない。

 声もかけない。

 同じ心を持つ人間だというのに、外見が変われば、それを認識さえされないのだ。

 実質──高坂絹が死ぬ、ということである。

 なんという皮肉。

 同じ外見で、京都では心を入れ替えようとしている。

 一方、絹は同じ心なのに、顔がすげ替えられようとしている。

 それほど。

 面の皮というものは、人間にとっては大事なものなのだと、この瞬間、絹は痛いほど知った。

 織田が「顔」というものにこだわり続ける意味が、はっきりと分かった気がしたのだ。

 簡単に言えば。

 絹は。

 この顔を──捨てたくなかったのだ。

 桜の亡霊がつきまとう、忌まわしい顔だというのに。

 いま、彼女が彼女であるためには、この顔がなければならなかったのである。

 いやです…ボス。