ワケあり!

 これが、渡部の言っていたアクロバットか。

 森村に織田をトレースして、その事実を渡部家が独占し、他の部下達と一線を画すること。

 広井家に帰り着き、絹は部屋に引きこもった。

 そして、ひたすらに頭の中で考えをめぐらせていた。

 しかし、トンデモ話すぎて、どこから手をつけたらいいのか分からないのが事実だ。

 このトンデモ話は、ボスというマッドサイエンティストに出会ってから始まった。

 人間、ありえないほどの科学に出会うと、それを使わずにはいられないのか。

 電話、してみよっかな。

 絹は、自分の携帯を見た。

 ボスに、だ。

 心配だった。

 織田に仕事を強要され、異母弟を手にかけるのだから、参っていてもおかしくない。

 ボスが、本気で自分だけ逃げる気になれば、可能なように思えた。

 だが、ボスにはチョウがいる。

 おまけに、島村も絹もいる。

 それらが、ボスの足を引っ張っているのは、おそらく間違いなかった。

 携帯を取る。

 登録している、ボスの番号を呼び出す。

 発信を──押す。

 コールは、長く続いた。

 長く長く。

 そして。

『私だ』

 ついに、ボスとつながった。

「絹です…島村さんから全部聞きました」

 最初に、絹は結果を話した。

 もうボスが、何も隠さなくてもいいのだと、それを伝えたかったのだ。

 絹は、彼の味方なのだから。

『そうか』

 しかし、ボスは何ら変わることもなく、その事実を飲み込んだようだ。

「それと…渡部の息子が接触してきました」

 これには、微かに反応する気配があった。

『絹…』

 ボスが、彼女の名を呼ぶ。

 渡部についての、コメントがくると思っていた。

 だが。

 ボスは、こう言った。

『私は…お前の顔を、変えようと思っている』

 たたり続ける桜の顔を──変えると。