ワケあり!

 夏休みのいい天気の日は、「暑い」と同義語だ。

 その熱風が、絹の皮膚を撫でる。

 玄関先。

 絹は、ゆっくりと渡部を見た。

 いま、彼の発した森村について問おうとするが、どう聞けばいいのかよくわからない。

 しかし、島村と話をしてきたことと、無関係とは思えなかった。

 絹が、ついさっきその話を聞いてきたのだと──知っているかのようなタイミング。

 そして、馬鹿馬鹿しい織田派の「偶像崇拝」。

 この顔にこだわるように、彼らはあの顔にもこだわるのではないのか。

「森村さんは…誰かに似てるんじゃない?」

 ボスの言葉が、頭をよぎる。

 初めて、子供たちが顔を合わせた時。

 周囲の大人たちが、ざわついていたと。

 あのざわつきは──森村を見たからではないのか。

 にこっ。

 渡部の、さわやかでドス黒い笑み。

「もう、ビックリするほど…そっくり」

 決定的だった。

 森村に関する全てが、ここで連結できた。

 考えたくもない、おぞましい事実。

 森村は──織田に似ているのだ。

 そのせいで、渡部家は彼を利用することにした。

 種馬にしたのは、よく似た子供を作るためか。

 そして、織田の命が危ない今──彼が、織田のトレース先として決定してしまったのだ。

 青柳の所持している誰か、ではなく、森村に。

 ボスは、異母弟の心を殺す仕事をしなければならないのだ。

「夏休み明けに、もしかしたら会えるかもよ…学校で」

 ふふふっ。

 何という悪趣味。

 森村の顔をかぶった織田のコピーが、学校に通うなど。

 おそろしすぎて、考えたくもなかった。

「そう…それじゃ休み明けは、あなたが森村さんのパシリになるのね」

 そんな皮肉しか、返せない。

 しかし、そんな皮肉でも──渡部の頬の皮一枚くらいは、引きつらせたようだった。