ワケあり!

 何事もなかったかのように、髪を乾かし、制服に着替え、身支度を整える。

 アルバイトは、制服でいいと言われていたのだ。

 7時半。

 朝食の時間だ。

 廊下に出ると――少し向こうに、制服姿の将がいた。

 ああ、出てくるのを待っていたんだろうなと、分かる。

「おはよう」

「おはよう」
 
 なんだろう。

 また、昨日と将が違って見える気がするのは――彼にもアキと同じ『陽』を、はっきりと認識したからだろうか。

「おっ…おはようっ!」

 二人の間のドアが開いて、いきなり了が転がり出てくる。

 結びかけのタイ、はねたままの髪。

 いかにも寝坊しましたという了は、二人の声を聞いて慌てて出てきたのだろう。

「おはよう、了くん」

 くすくすと笑っていると。

 将よりも、もっと奥でドアが開く。

 こっちは、タイはぶら下げたまま。

 ふわあと、大きなあくびをしている京。

「何だ、ガン首揃えて…」

 ボタンを締め切っていないシャツの襟元を、無造作にかく仕草。

 彼もまた、まだはっきり覚醒しきっていない気がする。

「おはよう、京さん」

 くすっと。

 絹は笑った。

 車や学校で見かける彼らとは、また違う雰囲気だ。

 カメラは、部屋を出る寸前にオンにしていたので、きっとこの光景はボスも見ているはず。

「絹が、どこの部署行くか聞いてるか?」

 手だけで軽く絹にあいさつした京が、次男坊に問いかける。

「いや、聞いてないよ。父さん、もう出社してるみたいだから、会社で言うんじゃ…」

「実は、絹さんを僕のいるエンタメ部にしてって、パパに言っといたんだ」

 将の言葉を、途中で叩き割る弟がいた。

 えへへー。

 朝日以上に、眩しい笑顔の了。

 上二人の目が、一瞬糸目になった。

「親父が、了の希望を聞かない方に賭けるぞ」

「兄貴…それ、賭けにならない」

「ええー!!!」

 朝から絹を笑わせて、どうしようというのか、この兄弟は。