ワケあり!

「アキさん、すみません」

 昼食が終わった後、絹は端の方で彼女に声をかけた。

 女同士の話が、したかったのだ。

「はい、何でもおっしゃってください」

 しゃきっと、彼女の背筋が伸びる。

「アキさんは、いつもどこでお稽古してらっしゃいます?」

 絹の質問に、アキは表情を険しくした。

「お稽古、といいますと?」

 表現が、回りくどかったようだ。

「身体を鍛えてらっしゃるところです…いまも、欠かさずトレーニングされてますよね?」

 山ごもり、などという単語が出てくるのだ。

 今は腑抜けになってます、なんてありえなかった。

「早朝、一階の広間で、ですが…テーブルを片付けると広いので」

 言いながらも、まだ絹の意図を掴みきれていない声。

「ご一緒させてもらえませんか? 高校に入って、さぼりすぎて、だめな身体になってるみたいで」

 ただ、広井ブラザーズの相手だけしていればよかったので、もはや体術の訓練などしてもいなかった。

 この訓練ばかりは、相手がいるのだ。

 アキが、うってつけに思えた。

「あの…何か身に付けられてるのですか?」

 格闘歴を聞かれる。

「護身術のような、ものです…何かあったら、自分で守らないといけませんから」

 言い終わるや。

 がっし!

 アキの大きな手が、絹の両手を握り締めていた。

「素晴らしいです! そうです、自分は自分で守れるのが一番です!」

 新陳代謝のいい、温かすぎる手。

 生命エネルギーさえ、そこにほとばしっているかのようだ。

「では、明日朝5時から…大丈夫でしょうか?」

 手を放し、再びきりっとしたアキに問われる。

 朝5時。

 明日から、アルバイトも始まるらしいので、ちょうどいい時間だ。

「はい、お願いします…あ、できれば他の方には秘密で…心配されそうなので」

 格闘において、ド素人ではないことを、見られるのはありがたくなかった。

 まだ、絹のかぶっている皮が、はがれてしまうのは早すぎる。

 アキは、心配しなくていいという風に――目を細めて見せた。