「…というわけだ、分かったね?」

 そう、説明がしめくくられた。

「分かりました」

 絹は答えながら、制服のリボンを整える。

 五月。

 車の窓から見える緑が、眩しいほど。

 絹は、それに目を細めた。

 いよいよ、高校生活の始まりだ。

 人より、一ヵ月遅れての入学。

 療養生活のせいだった。

 これで、やっと自由に動けるようになる。

「ついたよ」

 校門の前に、車が横付けされる。

 既に、授業の始まっている時間だから、静かなものだ。

 閉ざされた門のそばに立っている守衛が、車に近づいてくる。

 そう、守衛のいる学校なのだ。

 私立 聖上学園。

 頭脳明晰な金持ちしか入れないという、門の狭さではピカ一な学校だった。

「では、いってらっしゃい。健闘を祈るよ」

 運転席から、親指が立てられる。

 絹は、車のドアに手をかけ、降り立った。

 ちょうど、守衛が側まできたところだ。

「高坂 絹、です。今日から通うことになりました」

 守衛に向けて、ゆっくりと一礼。

「あっ、いや、まぁ…ちょっとお待ちください」

 守衛は、焦ったように赤くなりながら、携帯電話を取り出す。

 職員に問い合わせるのだろう。

 しかし、電話をかけながらも、ちらちらと絹の方を盗み見る。

 ふふっ。

 彼女は、そんな守衛に微笑んだ。

 彼は、ますます赤くなる。

「失礼しました、どうぞ」

 確認が取れたらしく、彼女は門の中へと案内される。 

 その前に、車を振り返る。

 頑張るよ。

 手を振って、運転席の眼鏡の男にアイコンタクト。

 それを確認して、車は走り去った。


 さあ。


 突入だ。