ワケあり!

 よく考えてみれば。

 うぐいす色がかった目を見て毒気を抜かれた絹は、綺麗になった足で部屋に戻ってしまった。

 よく考えてみれば、先代の嫁に続き、桜が存在するのだから、青柳がお得意のコーディネートで、よく似た子が生まれるように操作していてもおかしくはなかった。

 あの子もきっと、その結果生まれたのだ。

 ただ。

 正常な意識は、どこに置いてきたのか。

 前にボスが、コーディネートで失敗した人間の行方を、聞かないほうがいいと言った。

 あの口調からすると、おそらく闇の中に葬られるのだろう。

 では、あの子はなぜに、そこにいるのか。

 顔はそっくりでも、青柳としては中身は失敗だろうに。

 考えられる可能性は――桜の代用品。

 妻は、あの顔でなければならない、のかどうかは分からない。

 しかし、青柳があの顔に固執している気配は、そこはかとなく漂っている。

 ということは。

 はっと。

 絹は、身の危険に気づいた。

 もしも、青柳が絹の顔に目をつけたらどうするのか。

 既に、柴田と蒲生には顔を見られたし、数人の使用人とも顔を合わせた。

 それが、青柳の耳に入ったら。

 蒲生の言った、殿への献上品にさせられるのではないだろうか。

 思い当たる節はある。

 渡部が、絹の過去の秘密を、きれいさっぱり消したことだ。

 この顔が作り物であるという事実は、ごく一部の人間しか知らないまま。

 だから、青柳が生まれつき絹がこの顔を持っていると、勘違いする可能性がある。

 ちょ。

 相当、ヤバイ気がする。

 桜の身代わりに、悪党の嫁なんてまっぴら御免だ。

 すがれるとしたら、渡部が献上品説を否定したことか。

 しかし、それはあくまで彼が考えていることであって、この顔にこだわっている人には通用しないかもしれない。

 とにかく、渡部にその辺りを確認しなければ。

 そう思った瞬間。

 人の気配を感じた。

 開け放たれた縁の方。

 渡部が帰ってきたのかと、はっと顔を向けると。

「ハ~イ」

 物陰から、可愛らしく手を振る――蒲生がいた。

 こ、こっちが来たか。