ワケあり!

「で、私にどうしろと」

 いちいち絡んできて、どういう要求があるというのか。

 今後もウロつかれると面倒なので、さすがに絹も彼女らの要求がなんなのかを聞いておこうと思った。

 顔をホメられたから、どうしたいというのだ。

「整形してちょうだい」

 きっぱり。

 先頭の女は、即答だ。

 は?

「うちのお抱えの美容整形医師を紹介するわ、費用も私持ち。勿論、醜くなんかしなくてよ」

 真顔だ。

 本気だ。

 絹は――頭が痛くなってきた。

 金持ちの考えは、飛躍しすぎる。

「ご希望の顔があれば、期待に沿いますわ。ですから…その顔を捨ててちょうだい」

 今日ほど、天野の登場を切望したことはなかった。

 余りに異星人すぎる思考に、絹は脱力してしまったのだ。

 蹴散らして行きたいのに、その気力を奪われた。

 とりあえず、答えは決まっている。

「おことわりします」

 しゃべると、口から自分の魂が出てきそうだ。

 それくらい、絹は疲労していた。

「手荒な真似はしたくなくてよ…はいと言ってくださらないかしら」

 絶対、頭おかしい。

 脅しに切り替わった女性陣に、絹がドン引きしていた時。

 五人の頭の向こうを、更に頭ふたつほど高い存在が通り過ぎる。

 はっと。

 絹は、それが誰であるかに気づいて、口の中に魂を戻した。

「森村さん!」

 絹の会いたかった男だ。

 すっ。

 高い視線が、絹の方へと向けられる。

 ああ、と。

 目が彼女を認識した。

「……」

 しかし――そのまま、行ってしまった。

 ガン無視デスカ!

 兄の養い子は、一瞬にして見捨てられたのだった。