ワケあり!

 そう。

 確かに、渡部はいま忙しい。

 だが。

「ごきげんよう」

 五人の女が、忙しいわけではなかった。

 忘れてなかったのね。

 昼休み、1階で絹は足止めを食らってしまう。

 天野の気配を探すが、いま渡部がおとなしいので、彼女も完全に油断していたようだ。

 現われる様子はない。

 さっさとやりすごさなければ、了が迎えにきてしまう。

「ごきげんよう、さようなら」

 絹は、挨拶を即座に別れのものに変え、脇をすりぬけようとした。

 しかし、相手は五人。

 影分身のようにスライドして、行く手をふさがれてしまう。

 あーもう。

「誰が渡部さんの恋人か、決着はついたんですか?」

 将からの受け売りの技を繰り出してみる。

 しかし、先頭のボス級の女は、それにフフンと笑った。

「渡部様の愛は、地球規模ですのよ…誰か一人しか選ばないなんて、そんな器の小さい男じゃありませんわ」

 自慢げに言われる言葉に、絹はあきれる。

 それって、ただ単に渡部に丸め込まれただけじゃ。

 複数の女を囲うのを、正当化するだけのへ理屈。

 さすがは、あの女好きの祖父の血を引いているだけのことはある。

「じゃあ、なぜ私に絡んでくるんですか」

 彼女らの前で渡部が絹をホメちぎっていたことが、嫉妬の原因らしい。

 どうしてそれも、地球規模の一環にしてくれないのか。

「渡部様が…取り立ててあなたの顔をほめたのよ!」

「そんなこと、私たちにもなさらなかったわ」

「『可愛い』とか『綺麗』はおっしゃってくださるけど、あなたの顔だけは特別おほめになったのよ」

 その時のことを思い出したのか、涙目になって悔しがる女性もいた。

 あー。

 絹は、額を押さえた。

 それはどう聞いても――渡部のイヤミだ。

 彼は、この顔を偽物だと知っているのだから。

 陰険すぎる。

 記憶の中の渡部に、絹はアッパーカットをくらわせたのだった。