ワケあり!

 将が、珍しく学校を休んだ。

「ただのハライタだ」

 京は、一言で切って捨てる。

「夕食前に、厨房につまみ食いに入ったんだよ、おなかすいたって」

 おかしくてしょうがなさそうな、了。

「今日のあいつは、トイレの住人だな」

 詳しく想像したくない方向の、話になってきた。

「大丈夫? お見舞い、行った方がいいかな」

 家に行くとボスが喜びそうなので、絹はそんな下心を持った。

「い、いや…今日はやめてやれ」

「うん…将兄ぃ、かわいそうだから」

 しかし、兄弟二人に止められては、さすがにゴリ押ししようもない。

 残念。

 そんな絹の気持ちをよそに、了が異様に上機嫌だ。

「将兄ぃには悪いけど、今日はお昼は絹さんと二人~♪」

 そして――正直すぎる口。

 あ、あははは。

 自分の欲望に素直な彼に、苦笑するしかなかった。

「オレが行ってやろうか?」

 ニヤッ。

 そんな声が、助手席から聞こえる。

「京兄ぃっ! そんなことしたら…僕、呪うからね…」

 せっかくの久しぶりの楽しみを奪われまいと、末っ子も必死だ。

 精神攻撃まで視野に入れてきたか。

「はいはい…勝手にしろ」

 放り投げるような、しかしニヤニヤするような声音。

 かわいくてしょうがないのだろう。

「あ、絹さん…心配なら、僕、高等部に迎えに行くよ~」

 将という番犬がいないのだ。

 了も、移動を心配してくれている。

「大丈夫よ」

 いま、渡部はテニスのおかげで、絹を攻撃対象から外しているのだ。

 逆に、安全にさえ思える。

「僕、少ししか待たないからね…ちょっと待ってこなかったら、すぐ迎えに行くからねっ」

 可愛い了の主張に、絹はハイハイと微笑んだのだった。