ワケあり!

「高坂さんっ」

 この、イントネーションは。

 放課後、将と部室に向かおうとしていた時、呼び止められた。

「こんにちは」

 振り返ってあいさつすると、ゴージャス天野がいた。

 将が、三度瞬きをした気持ちはよく分かる。

「最近、アレには絡まれてへんのやね、よかったよかった」

 上機嫌な様子に、なおさら眩しく感じる。

「アレもいまは部活で忙しいからなぁ。インハイ終わるまで、あんま心配せんでええで」

 うんうん、と自分の言葉に頷く。

 ああ。

 最近静かなのは、将という番犬のせいだけではなかったのか。

 悪い奴なのに、結構テニスは真面目のようだ。

 テニスと言えば。

「森村さんも出るんですか?」

 あの、冷たい目をした男を思い出す。

「あんた、森村も知ってるんか。あいつ、ダブルスやったっけな。出るんちゃう?」

 彼の名前への反応は、さらりとしたものだ。

 ゴージャス天野は、森村にはたいして興味がないのか。

「彼は、関西出身じゃないんですか?」

 織田絡みの母がいるなら、関西かと思ったのだが。

「違うで。こっちきてからやなあ、あいつ見たん」

 答えを聞きながら、絹はこの辺で切り上げようと思った。

 ゴージャス天野は、織田側ではないので、これ以上は知っていそうにない。

「あ、せやけど」

 ぽっと、彼女が言葉をこぼす。

 不思議そうに。

「せやけど、なんであいつ毎年、がっこ休んで一緒に祇園さんに行ってるんやろ」

 祇園さん――京都祇園か!

 しかも、渡部と一緒に、か。

 うわぁ、怪しい臭いがプンプンする。

 鼻にまとわりつく織田臭さに、絹は顔をしかめたのだった。