ワケあり!

「そう言えば、誕生会の話が出ていたな」

 ボスが、なぜだかソワソワしている。

 話が出たのは今日、というわけではない。

 まだ広井兄弟から、具体的な話は聞かされていなかった。

「どうかしました?」

 絹の誕生日に、興味を示すはずはない。

 あるとしたら、京の方。

 京都の祇園祭とやらに、興味でもあるのか。

「いや、会の場所は広井邸なのか?」

 ごほんごほんと、不自然な咳払い。

 あー。

 絹は、そこで察したのだった。

 広井邸で誕生会とやらがあり、そこにチョウが参加するのではないかと期待しているのだ。

 どうも――ボスも参加したいらしい。

「聞いておきますね」

 くすくす笑いを止められない絹は、勿論ボスの意向に沿うつもりだ。

「いや、うん…まあ」

 曖昧に反応するボス。

 広井兄弟で、こんな状態になることはない。

 さすがは、チョウの威力といったところか。

 そんなボスの後ろを、珍しくぼーっとしたような島村が通る。

 あ。

 そんな彼を目で追った絹は、見てしまった。

 ゴンッ。

 壁と、正面衝突する島村を。

 はっと、彼はそこで我に返ったようだ。

 絹の視線に気付くと、逃げるように居間を去って行った。

「島村さん…具合でも悪いんですか?」

 珍しい様子に、絹は聞かずにはいられない。

「ここ二、三日、あんな感じだぞ…研究のことで、頭いっぱいなんじゃないか?」

 ボスの言葉に、絹はとりあえず納得した。

 一緒に住んでいるとはいえ、彼女はほとんど島村のことは知らないのだから。