「あなたが、高坂さん?」

 言葉は標準語だが、イントネーションが、明らかに関西な声に呼び止められる。

 昼休みの、広場への移動中―― 一階から、外へ向かおうとしていた。

 振り返ると、なんだか眩しい。

 日本人離れした、濃いめの美人が立っていた。

 学校なのだから、アクセサリーなどはつけていないのに、全身から金色のオーラでも出しているんではないかと思う眩しさ。

 こんな歩くゴージャスに、知り合いなんかいなかった。

「渡部のことで、話があるのだけど」

 すぱっと本題を切り出す。

 しかも、様づけではない。

 彼と親しいのだと、アピールしているのか。

 先日の、宮野の警告が甦る。

「考えてらっしゃることは、全部誤解です。では、私は行くところがありますので」

 話とやらを先回りして、絹は五秒で終わらせた。

 そして、すたすたと再び歩き始める。

「な…なに勘違いしてんねん。うちは、渡部派やあらへん。また、渡部がいらんことしよ思てるから、警告しに来ただけや」

 素早い言葉は、標準語では苦手なのか。

 こてこての関西弁で、引きとめられる。

 んー?

 思わぬ雲行きに、絹は微妙な気分になった。

 とりあえず、ゴージャス姉さんを振り返る。

「あんた、渡部の不興買ったやろ? あの男が、むやみやたらに一人の女ほめる時は、痛い目見せよて思てんねん」

 取り巻きたちの前で、ぎょうさんほめちぎっとったで。

 あのやりクチ、ムカつくねんと、どんどんしゃべくってゆく。

 かなり、おしゃべりな性格のようだ。

 ふぅん。

 渡部が率先して、取り巻きをけしかけようと思っているのか。

 また、めんどくさいことになりそうだ。

 しかし、本人じゃないだけ、マシかもしれない。

 まだ、絹は対応できそうだった。