ワケあり!

 渡部 圭一。

 大手ゼネコン「渡部組」の長男。

 それが表の顔。

「織田」の中では、父親はその右腕の役職についている。

 絹のボスは、その右腕の異母兄弟というワケだ。

 よほど資質がないと判断されない限りは、世襲制らしいので、あの男が、将来右腕に就任するのだろう。

 金持ち学校にしては珍しく、テニスの腕がよく、インターハイにも出場したほどの腕前だ。

 そのほか、ボスの資料には、父親のこと、祖父のことまで詳しく書かれていた。

 注目すべきは、祖父。

 ボスの父親だ。

 これがまあ、無類の女好きときている。

 いまも生きているらしいが、孫と同じ年の子がいるというから大笑いだ。

 勿論、正妻の子ではない。

 その子も、この学校に通っている。

 3年の、森村という男子生徒だ。

 絹は、その存在に興味を持った。

 叔父と甥が、同じ学年にいる。

 しかも。

 その森村が、どれだけマゾなのか知らないが、あの渡部と同じテニス部なのだ。

 うまくすれば、対渡部用ストッパーに使えるかも。

 まずは、どんな人間か調べなければならないが。

 幸い、絹には委員長という、かすかなツテがある。

 余り表だって話を聞くと、ボスに怒られるので、体育の時を見計らった。

 カメラを切って、と。

「委員長…森村さんって男子テニス部員、知ってる?」

 絹は着替えながら、彼女にさりげない感じで聞いてみた。

「ん? 森村副部長のこと?」

 んー。

 返事に、微妙に引っかかる。

 アレが部長で、コッチが副部長、と。

「ど、どんな人?」

 何だろう、胸騒ぎがする。

「そうねえ、静かでしっかりした人かな…部長と正反対」

 ふふふ。

 思い出し笑いをしながら、委員長は教えてくれる。

 絹はいやな予感が外れそうで、ほっとした。

「部長と仲がいいわね…いつもダブルスは二人で組んでるわ」

 前言撤回。

 そのダメオシに、森村計画が、暗礁に乗り上げたことを知ったのだった。