ワケあり!

「おはようございます」

 絹は、にっこりと微笑む。

 そして、その程度の知り合いという風に、すれ違おうとした。

「もう平気なのかな…絹ちゃん」

 奥歯に、しっかりと物を挟んでおっしゃってくれる。

 一緒にいた将が、不穏な気配を感じたようで、足を止める。

 既に面識があって、不快な思いもしているのだ。

 下手に反応されると、厄介である。

 絹は、しっかりと足を止めて振り返った。

「ええもう…すっかり元気です。ご心配をおかけしました?」

 極上の微笑みで、しかし最後はやわらかく上がる疑問形で、渡部を突き放す。

 心配なんかしてないでしょ、と。

 そして、再びスタスタと歩き出す。

 後方で、こらえきれないような渡部の笑い声が上がったが、絹はもう振り返らなかった。