ワケあり!

「絹さん…大丈夫?」

 翌朝、迎えにきた了の一言目がそれだった。

「ええ、もう大丈夫よ…ごめんね、驚かせて」

 まだ少し、足元がフワフワしているが、熱はほとんど下がっている。

 昨日の今日で休んだとなると、あの渡部という男が喜びそうで、気合いで起き出してきたのだ。

 あの言葉は、さしてショックではなかった。

 そう、彼に思わせなければならない。

 弱みを見せたら、何度でも抉ってくるだろう――あの「角」は。

「歩」の対処法としては。

 折れないこと。

 ただそれだけ。

 最初から、向こうが有利なのは分かりきっている。

 だから、何を言われても何をされても、絶対に倒れないこと。

 それだけしか、「歩」が生き残る道はない。

 新たな「歩」を打ち込むように、絹は心を何度も新しくして、「角」に立ち向かうしかないのだ。

 車に乗り込むと、将も心配そうに見る。

 昨日の午後は、ずっと授業中に、真っ青な顔を見られていただろう。

「大丈夫よ、将くん…もう平気」

 にっこり。

 絹は、いつものように微笑んだ。

 渡部の資料を読み、自分が「歩」としてどう動けばいいのか、昨日覚悟ができたからだろう。

 彼らに対して、いつもどおり動ける。

 そんな絹を、高等部の玄関口で、試練が待っていた。

「おっ…ホントに登校してきた」

 よっぽど暇なのか。

 笑顔の貴公子――渡部様だ。