ワケあり!

 見詰め合う――というより、荒野で対峙するガンマンのような状態だった。

 梅雨時の、やや湿度をはらんだ風なので、荒野のように砂埃は舞わなかったが。

「そう…あの人も、はぐれものだからね。あんまり本家とは関わりたくないだろうけど…僕のことくらい、よく言ってくれてもいいのに」

 はぁ、やれやれ。

 渡部は、苦笑交じりにボスについて話をする。

 絹は、迂闊に反応しないようにしたまま、言葉をかみ締めた。

 彼女の知らない話をしているのだ。

「可愛い、甥っこなのにねぇ…」

 光る――目。

 表情を変えない絹に、それが注がれる。

 はぁ、さいで。

 感想はそんなものだ。

 なるほど、ボスの親戚か。

 道理で彼について、はっきりと知っている口ぶりだったわけである。

 もっと深く突っ込むと、ボスは妾の子らしいので、この渡部の親の異母兄弟、ということになるのか。

 更に突っ込むと。

 渡部が織田絡みとするのなら、ボスもまんざら絡んでいないわけではない、ということになる。

 その辺がつながって、逆にすっきりしたくらいだった。

 ボスとこの男の血が、一部混じっているからといって、ボスの価値に揺らぎが生じることはない。

「それだけでしょうか?」

 絹は、静かに言った。

 もう話を終わりにしたかったのだ。

「んー、そんなそっけない態度とっていいのかなあ…」

 ムカつく、すっとぼけ笑いが浮かぶ。

 まだ、切り札があるのだとでも言いたいのか。

「高坂巧のことなら、何でもすぐ分かるんだよ……同じ世界で生きてるんだから」

 絹の後ろに、ゆっくりと回りこむ渡部。

 わざとらしく優しい手が、彼女の両肩に乗せられる。

 全身に鳥肌が立った。

 刹那。

「ねぇ…735号」

 甘い甘い囁き。

 頭が、真っ白になる。

 視界が暗く翳る。


 絹の――時が止まった。