ワケあり!

「イヤダ」

 帰った絹は、ボスにいきなり、そう宣言された。

 何と言われるのか、最初から分かっていたかのように。

 そうだろうなあ。

 絹は、その言葉を聴いて、反論することなく「ただいま帰りました」とだけ言った。

 いくら将や京が知りたがっているとは言え、ボスの大嫌いな桜について調べるとは、やっぱり思えなかったのだ。

 彼女に織田が絡んでいるという事実が、なおさら彼をそうさせるのかもしれない。

 まだ、絹には「織田」は漠然とした存在だが、彼女のいたところを運営している連中だ。

 悪者と安直に称されるように、関わるとロクな目にあいそうになかった。

 ボスも、そういう経験があるのかもしれない。

 織田絡みのところに、絹を買い付けにくるような、裏社会の人間なのだから。

 ただ、将はそういうワケにはいかない。

 今日のあの様子からすると、再び渡部に話を聞きに行く可能性が高かった。

 その時、下手に彼が深く首を突っ込むと――危険ではないのだろうか。

「ボス…これだけ教えてください」

 絹は、ツーンとした横顔に声をかける。

「将くんが、渡部って男に食い下がっても平気ですか?」

 あの男が、無害なのかどうか。

 彼女は、それだけは確認しておこうと思ったのだ。

 ボスの大好きな、次男坊のために。

 ピクリ。

 ボスの頬が、一瞬ケイレンした。

「もし、ダメなら早めに教えておいてくださいね…でないと、止められませんから」

 桜の死への好奇心と、ボスの欲望とを秤にかけるなら、勿論、絹は後者を優先する。

 だからこそ、知っておかねばならないこともあるのだ。

「……だ」

 珍しく、ボスの唇が歯切れが悪い。

「はい?」

 絹は、聞き返した。

「だめだ! ずぇーったいダメ! 渡部の性悪にもう近づけるな!]

 キッと絹へと向き直り、ボスは大上段から命令する。

 それに、彼女はにっこりと笑った。

 やっぱり、と。

 やっぱり、あの男は危険な織田絡みなのか。

「了解、ボス」

 絹は、よい手駒だ。

 ボスの言うことは、ちゃんと聞くのである。