ワケあり!

「あら、部長…こっちだったんですか」

 委員長が、戻ってくる。

 部長はまだ来ていないと、教えに戻ってきてくれたのだろう。

「こちら、高坂さんと広井くん…部長にお話があるんですって」

 苦く渦巻く空気。

 委員長は、しゃべっている途中で、それに気づいたようだ。

 語尾が、怪訝に揺れた。

「うん、でももう話は終わったから。行こうか、あーちゃん」

 軽い男は、委員長の腰に手を回して、回れ右させる。

 絹は、目だけを動かして、渡部を追った。

 振り返りざまの彼と、その瞬間、目が合う。

「いいねぇ…絹ちゃんのその目。生きてるって感じ…やっぱ、いくら綺麗でも生きてないと、ね」

 軽く片手を上げて、バイバイと手を振られた。

 委員長が、何度も何度も振り返って、彼らの方を気遣う様子を見せたが、渡部に力づくて連れていかれてしまう。

 とんでもない爆弾だった。

 ちょっと知っているかも、じゃない。

 相当知っているに違いない。

 もしかしたら、織田関係の人間なのかもしれない。

「あの人……知ってるよね」

 将が、ぽつりと呟いた。

 最後の辺りの言葉は、聞こえていないはずだ。

 しかし、相手は将を広井の人間だと知っていたし、付き合う相手を選べと言ったのだ。

「そうね…知ってそうね」

 だが、知っているからといって教えてくれるような、好意的な人間には、とてもじゃないが見えなかった。

 食わせものだわ。

 女好きの軽い男、というのはどうやら飾りのようだ。

 人間、見た目どおりではないということくらい、絹は自分でよく知っているというのに。

「でも…将くんが直接聞くと…きっと、傷つけられるわ」

 母に思い入れがある分、その傷は深くなるだろう。

 お前の母は、殺されたのだと――そう言われたら。

「うん…そうかもしれないな」

 意外にも、将はすんなりそれを納得した。

 自分への敵意のようなものを、感じ取ったのだろうか。

「けど、一番傷つくのは、子供の頃にもう終わったから…大丈夫だと思う」

 将は、少し笑った。

 倒れないようにふんばる、男の笑顔だった。