ワケあり!

「ちょっと待ってね…男子部から呼んでくるから」

 そう言って、委員長は部室棟の一階へと消えた。

 運動部は、大体一階に集中している。

 その入り口辺りで、二人は部長の渡部を待つことにした。

 青柳って名前と、望月を並べたのが気になるなあ。

 この顔を桜と結びつけたというのなら、望月が出てくるのは分かる。

 しかし、青柳という名字を出したのは、なぜなのか。

 将と待ちながら、絹は推理を組み立てようとした。

 のに。

「はぁい…絹ちゃん」

 突然、耳の後ろから囁かれ、絹は振り返りながら飛びのいたのだ。

 まったく気配がなかった。

 しかも、彼女をちゃんづけで呼ぶ人間など、いないはずだ。

 振り返った先には――

「こんなところで、何してるの?」

 柔和なハンサム、渡部様だった。

 彼は、まだ部室へ行っていなかったのだ。

 それに。

 この男は、彼女のことを何と呼んだか。

 もしかしたら、委員長が名前を教えたのかもしれないが。

 彼はラーマソフトより軽い男で、ほぼ初対面の相手を、そんな風に呼べる人間なのかもしれないが。

 調べられた!?

 絹は、それを警戒して身構えたのだ。

 桜を知っている人間が、桜に似た彼女のことを調べるのは、至極ありえることに感じた。

「高坂…絹ちゃんだよね…こっちは広井んちの次男坊か」

 笑顔を浮かべながら、絹と将を交互に見る。

 将に対する言葉が、微妙に適当なのは、男だからか。

 それとも――広井だからか。

「あの…少し伺いたいことが」

 将は、怯まなかった。

 渡部に向かって、母の質問をしようとするのだ。

 なのに。

 将を無視して、彼は絹の方へと向かってきた。

「絹ちゃん…付き合う相手は選ばないと…」

 周囲をはばからない、明るい声。

 絹は、警戒したまま動けなかった。

「その顔で、広井と付き合ってると…誰かさんみたいに、殺されちゃうよ」

 最後の言葉は、絹の耳元で。

 あざ笑う声に聞こえた。