ワケあり!

 ボスに聞けたらなあ。

 絹は、うーんと唸った。

 織田に関して、変な知識を持っているボスならば、望月も青柳も、もしかしたら知っているのかもしれない、と。

 しかし、あの奇妙なすっとぼけ以来、織田の話はまったく出なくなった。

 出ることが不自然だったし、ボスが桜について調べよう、などと思うはずもない。

 ん?

 そこでふと、絹は引っかかった。

 そうだ。

 ボスは、自分から桜のことを調べようなどと、思うことはないだろう。

 たとえ、こうして点々と、彼女の亡霊の痕跡に出会ったとしても。

 それなら。

「将くん…顔色が悪いわ、どうしたの?」

 まださっきの委員長の言葉から、毒が抜け切っていない将に、声をかけた。

「あ、いや…うん」

 言いよどむ。

 さあ。

 絹は、思った。

 さあ、わだかまっていることを、口に出して、と。

 この件で、絹が個人的に動けないというのなら、動く口実が真横にいたのだ。

 ボスも、将が知りたいと思えば、決して止めたりはしないだろう。

「さっきの話の望月って…」

 そうよ。

 絹は手招きをした。

「それ……母さんの実家の名字なんだ」

 よしきた。

 軽くガッツポーズ。

「あら…じゃあ、ご実家のお知り合いかしらね、男子部の部長さん」

 その話を、知らぬ素振りで引き伸ばしていく。

「私がお母さまに似ていたから、親戚と間違われたのかしら」

 京ほど、大きくはなかった将。

 了ほど、母を知らないわけじゃない将。

「あ、も、もう…昔の話だよ…母さんは死んだんだし」

 何かを怖がるかのように、将は口を閉ざした。

 そのまま、窓の外を向いてしまう。

 あーもー。

 釣り上げ――失敗。